要約筆記が奉仕員事業で続いた訳 



【権利意識が問われる要約筆記】
「要約筆記はコミュニケーションの保障に不可欠」と言うのと「コミュニケーションの権利として要約筆記が必要」と言うのでは意味が違う。
難聴者は自らの権利を言い切れるだろうか。
昨年、外部研修に要約筆記の会社負担を求めた際に初めて「権利」を口にした。受講料も交通費も会社負担なのでと主催者のコンプライアンス部門や派遣元とも協議しながら、結局公費派遣になったが、会社側もこちらも緊張した。


【要約筆記奉仕員事業が続いた理由】
要約筆記者派遣事業は手話通訳と同じ「社会福祉法第2種事業」に指定されているが残念ながら、その経過は要約筆記事業だから指定されたとは言えない。当時はまだ奉仕員養成カリキュラムの作成に懸命で、奉仕員と「者」の違いを認識していなかった。

「手話通訳活動」はろう者の権利を守るためにコミュニケーション支援の専門性を高めてきた。
しかし、要約筆記は利用される場が難聴者集団の場が多く、一人ひとりの権利擁護を問う意識が育たなかったと思われる。

難聴者協会の活動がまた、「聞こえる」中途失聴・難聴者にリードされた場合、要約筆記に求めるものが歪んでしまうこともあった(補完的な利用)。
要約筆記を見ない会長は困るというのは良く聞く話だ。

個人の権利意識が強ければ、切実に必要な就労の場での利用がもっと広く始まっただろう。

要約筆記奉仕員で活動している人たちが登録者集団を形成する意識がなく、サークルにとどまったのも利用者の意識を反映しているに違いない。


【要約筆記の目的の理解】
要約筆記は「要約筆記の三原則」がありながら、その意味理解は長いこと深まらなかった。

コミュニケーションの成立には言葉の何が必要なのか、同時性はなんのために必要なのか、思考出来る要約筆記とは何か。
なぜ話言葉の意味をつかんで文章で表すのか、「通訳行為」とは何か?
権利を守るためにはどういう専門性が必要か。

難聴者は、長いこと要約筆記の手話通訳との扱いの格差の是正を要望してきたはずだが、その格差は社会参加促進事業の要約筆記奉仕員養成事業と専門性を確立してきた手話通訳「者」の事業の違いにあった。

その要約筆記の専門性を確立させるカリキュラムに、市町村に通訳課程のカリキュラムは市町村では困難、指導出来る難聴者がいないという理由で反対するのは、要約筆記を手話通訳同様にという過去の要望にも反することになる。


【要約筆記奉仕員養成事業の位置付け】
障害者自立支援法で要約筆記者派遣事業が始まった今、要約筆記事業と奉仕員事業の違いを再度確認しよう。

障害者自立支援法では、専門性を持つサービスの担い手の養成は都道府県の事業であり、市町村の養成は想定していない。独自予算で実施出来る市町村はどれだけあるだろうか。

都道府県で要約筆記者事業が行われるならば、市町村で要約筆記「奉仕員」の養成は内容、位置づけを考えないと今後は厳しい。
それに社会参加促進事業の奉仕員養成は任意の事業であり、奉仕員の派遣事業は規定されていない。
派遣があるのは、地域生活支援事業のコミュニケーション支援事業の要約筆記者派遣事業だ(実施要項)。社会参加促進事業ではない。
ここに、要約筆記者と書かれた意味は大きい。


【要約筆記事業の今後】
障害者自立支援法第2期を来年に控えた今年(2008年度)に都道府県、市町村ともコミュニケーション支援事業について何らかの対応をすることは容易に想像出来る。
国も自治体も財政危機の中、補助金の削減に動く。任意事業の奉仕員事業での継続は難しくなる。
その時に要約筆記事業が緊急に優先されるべき事業とするためには、権利擁護の事業としての要約筆記事業であること、どのような専門性を持つか明らかにしてどのように習得させるかを説明しなければならない。

要約筆記者養成を急ぐが奉仕員を要約筆記者に転換する事業も必要になる。

全難聴の要約筆記事業、補修・研修事業報告書を読み込むことで今後の動きに対応出来よう。


ラビット 記