白い犬と人工内耳

ソフトバンクのテレビのCMは字幕がない。
難聴者には何を言っているのか、犬では読話も出来ないのでお手上げだ。

この間人工内耳でちょっと聞こえた。
小料理屋ふうのカウンターにお父さんが座って、松田聖子の女将さんと会話している。
(お父さんは白い犬のことだが、難聴者には何でそこに犬が居るのか、家族の父親であることも知らない)

お父さんが「結婚しないのか」と女将に言うと、女将がちょっと照れたふうに「お父さんと結婚しようかな」と答える。お父さんが何か言ったのは聞き取れなかったが、そそくさとカウンターを降りて帰ってしまう。

もう一つのCMは、携帯に本物の犬ほどもある白い犬のストラップをつけて電話しながら娘が家に帰ってきて「ああ、重かった」と言う。
お母さんが「そんなに重いストラップをつけなくても」。
娘が「でも筋肉が付いちゃった」と言いながら、片手で黒人のお兄さんを持ち上げている。

会話の全部が聞こえるわけではないが、所々聞こえる。他のことは分からないか曖昧だ。
難聴者の日常生活で聞こえるのはこういう状態だ。
まったくストレスにならない方がおかしい。いくら耳を澄ませても部分しか分からないので、疲れて「聞く」ということを止めてしまうのだ。

この「疲れる」というのも一般社会では理解しにくいだろう。
聞くことに神経を集中させて、このオンは何か、この言葉は何を言っているのか、こうかなと自分の頭にある言葉と聞こえた言葉を頭を高速回転させてマッチングしている。
この脳内作業が疲労の元なのだ。

聞こえない人にストレスを与えるCMは止めて、字幕をつけて欲しい。


ラビット 記