ダイバーシティ2008と難聴者

ハワイの風さんから、障害者のイベントに参加した感想が届いた。
実は、昨晩補聴器をして手話も堪能な難聴のピアニストや突発性難聴と大腿に人工関節を埋め込んだジャズシンガーに出会って、そのパワフルさに感動していたばかりだった。
その前に講演をしたのは難聴の大学教授だ。心理学の博士号を持つ。

難聴者はみな大きな力や個性を花開かせる可能性を持っている。それを引き出すのが運やたまたま巡り会った人ではなく、誰しもが可能性を発揮できるような体制、制度が必要だと痛感していた。
それが「中途失聴・難聴者エンパワメント事業」の障害者自立支援法による制度化だ。難聴者の苦しみの元を話す大学准教授の話を聞いたばかりの県の障害者福祉課長にこの考えを話したところ、顔がぱっと変わった。脈があるに違いない。


ラビット 記
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久しぶりに帰国した翌日、たまたま開いた新聞のページに興味深いイベントの案内があった。「ダイバシティ2008―障がい者と共に生きる」、キャリア戦略研究機構主催とある。お台場で障がい者のイベント?と思ったが、会場は神田とある。勇壮な主催者の名称にも心引かれたので出かけてみた。
ダイバシティはダイバーシティ(diversity=多様性)のことだった。そして、すばらしいイベントだった。まず会場。従来、障がい者のイベント会場いえば、○○障害者福祉センターとか△△会館など公けの地味な(内輪向きの)場所が多いように思うが、今回はビジネス街の大通りにある洒落た貸しイベントホールだった。次に講師陣の多彩な顔ぶれ。前宮城県知事・現慶応大教授の浅野史郎氏、故国スーダンの障がい児教育のため尽力する全盲のサッカー選手、聴覚障がい者のプロボディボーダー、それに障がい者の雇用を積極的に推進するモデル企業の雇用担当者2名。トップバッターの浅野氏は、「障がい者の地域参加、就労促進の鍵は、障がい
者と接点のない一般市民の非専門家を、いかにこちら側(障がい福祉専門家・関係者)の側へ無理なく引き込むか、というテクニックにかかっている」と力説。厚生省障害福祉課と宮城県知事時代に得た豊富な実例を多数引用し聴衆を引きつけた。全盲のアブディン氏は「見えないことで、損したことと得したことは?」という直截な質問に対し、「100人の人にすれ違っても彼らの表情がわからないことは損かな。でも、外見で人を判断できないからいつも深い会話ができる」と、完璧な日本語で『建前と本音』を使い分ける日本民族をチクリ。重度聴覚障害(110dB)の甲地由美恵氏は「障がいのあるなしにかかわらず、海の波はだれにでも差別なく押しよ
せる。聞こえなかったからこそ海と出会い、ボディボードと出会えた」という。打ち込めるものが見つけられない障がい者には、「夢はあなたの手の中にある。あきらめないで」。手話は使わず口(読)話で育ち、波や風などの環境音を聞くために補聴器を使っている氏だが、「手話だろうと口話だろうと、コミュニケーションの方法を多く持っていれば世界が広がる」。自身、サーフィンの大会で初めてろうのサーファーたちと手話でコミュニケーションをとったときの喜びをシェアしてくれた。人工内耳については、「聞こえていたらボディボードとの出会いはなかった。聞こえないからこそ波に挑戦し続けてこられた。だから聞こえるようになりたいとは思わな
い」。甲地氏は面前の口話通訳者(会場の質問をはっきりとした口形で講師に伝える)を読み取っての質疑応答で、会場には手話通訳もパソコン文字通訳もあり、難聴者もろう者も来場していた。聴覚障がい者の多様なコミュニケーション手段を目の当たりにした参加者個人の胸中はどうだっだったろうか。
ITベンチャー企業アイエスエフで障がい者雇用にかかわってきた白砂祐幸氏は「(障がい者雇用の)経験がない、仕事がない、知識がない、金がない、人がいないという5つの「ない」は創意工夫で克服できる。障がい者雇用は長期的にみて、全社員の残業や無駄の削減、生産率と企業への信頼感のアップなど、プラスの効果をもたらす」という。同社はうつ病や産休・病欠からの復帰者、ニート・フリーター、ひきこもり者などの雇用も推進しており、メンタルヘルス不全が社会問題化している今日、さまざまなマスコミ(例:「30代のうつ―会社で何が起きているのか」NHKスペシャル)にも取り上げられている。
広い会場はほぼ満杯で、ぱっと見にも障がい者当事者、福祉関係者、大学生、高齢者、こどもたちが見うけられた。ボランティア100人を使って運営するなど、イベント主催・企画者の手腕を見せつけ、まさに障がい者のキャリア戦略を、文字通り多様な視点から掘り下げたイベントであった。今後も2回3回と続けていく方向にあるそうで、益々の発展を祈りたい。