人工内耳とストラディヴァリウス演奏

天満敦子の無伴奏ヴァイオリン演奏会で紀尾井ホールに行ってきた。

バッハの6大ヴァイオリン無伴奏曲の3曲を聞いたが、初めてだ。
ヴァイオリンがこんなに豊かな旋律、音を出す楽器だとは知らなかった。弦楽器なのに管楽器も含む演奏に聞こえてしまった。
目をつぶると黄色や赤茶色のマーブル模様が円を描くように流れていく。街中にある紅葉した葉のイメージだ。
目を開ければ、天満敦子の操る弦の動きに合わせて、音が頭を駆ける。弱い繊細な旋律も入ってくる。

人工内耳フリーダムの音楽用のマップと補聴器のダヴィンチの両耳装用用のプログラムで聞いた。人工内耳の感度9、ボリュウム9と設定値の上限に、補聴器のボリュウムは通常値に設定してみた。
マップを換えてみたり、補聴器をオフにしてみたりすればまた違った聞こえになる。どれが本当の聞こえかと思いたくなるが、人工内耳は閾値が調整されているので最大に、補聴器は大きい音が入力されて抑制機能が働かないように低めにした。


最後の曲の演奏が始まった。ポルムベスクの「望郷のバラード」だ。ルーマニア独立運動に加わって亡命した作曲家の数奇な運命の曲に天満敦子が生命を吹き込んだとされる。この作曲家の話は映画にもなった時にもなった。
最初の数小節で旋律の記憶がよみがえってきた。

天満敦子は、2004年の全難聴の全国大会「オープンカレッジ」の一環として開かれた演奏会で聞いた。磁気ループと各種補聴システムを駆使した「望郷のバラード」は難聴の聴衆の胸を揺さぶった。
正直なところ、その時は磁気ループが使えない補聴器でもあり自分に感動は感じなかったのだ。しかし、今回は名器ストラディヴァリウス、名ホール紀尾井ホールそして天満敦子、人工内耳フリーダムのmusic機能、デジタル補聴器ダヴィンチをして、4年ぶりにあの演奏と集いの感動をもたらした。


人工内耳により、クラシック音楽を聴くという新たな地平が見えた。


ラビット 記