聴覚障害者が著作権法の改正を求める点

著作権法が改正されるという報道がある。

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障害者の映像鑑賞を容易に 文化庁著作権法改正へ (共同通信)
文化庁は28日、著作権者の許諾を受けなくても耳が不自由な人向けに映画や放送番組に字幕や手話を付け、DVDで複製することを認めるなど、障害者が映像作品を鑑賞しやすくなるように著作権法を改正する方針を固めた。・・・
http://news.www.infoseek.co.jp/kyodo/society/story/28kyodo2009022801000447/

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著作権課の説明では、障害者権利条約を意識した内容とのことで、DVDやビデオ等の著作物の字幕や手話を入れることと字幕や手話を入れたものを複製し、貸し出したりする場合や音声を字幕にしたデータの自動公衆送信をする際に著作権制限がかかるようになったり(著作権者の許諾が不要)、その制作者には特定の事業者だけという制約が外されるなど視聴覚障害者の情報アクセスにとって大きく前進したものになる可能性がある。

しかし、映像に字幕や手話を入れたものの公衆送信は認められていない。インターネットなどで流出する事をおそれているのかも知れない。

1.手話放送は字幕放送と違い、1%も放送されていない。字幕放送があるといわれるかも知れないが、手話でコミュニケーションとするろう者にとって、字幕は一般の人がが英語で聞いたり、全文カタカナで書かれた文章を読むように非常に理解しにくいものだ。

2.地上デジタル放送になっても、手話放送が拡大しない。現行の地デジの規格では必要な人だけが手話を見る機能(クローズドサインニング)が出来ない。
つまり、放送バリアフリーに役立つといわれている地デジは手話放送にとっては解決できず、ろう者はこの先何年ものテレビ放送にアクセスできないままになる。

3.国連の障害者権利条約に全ての障害者が障害を持たないものと平等の権利を有していることを歌っているにも関わらず、批准した政府の著作権法改正案は明らかに条約に反している。
著作権者の権利と障害者のアクセス権は対等でなければならない。

4.映像に字幕と手話を入れたテレビ放送を放送事業者は実施しない。大部分の聞こえる視聴者は手話や字幕が邪魔だからだ。
映像に手話と字幕を入れたものは、著作権者の利益を侵害しないように、特定の聴覚障害者にのみ送信できる。また、映像に手話と字幕を入れる形はいくらでも工夫できるし、クレジットさえ入れられる。

5.緊急災害時など国民の声明に関わる災害放送はNHKに義務付けられているが、これにすら字幕放送も手話放送も実施されていない。これも権利条約に明らかに違反している。

著作権法の情報アクセスの問題は、文化庁著作権課と2年前から協議してきたことだが、最後のところで、著作権者、事業者寄りになってしまった。当事者と著作権者との直接協議は出来ていたのだろうか。

著作権者は、自ら手話や字幕を付けた著作物を制作、公開する義務があるだろう。だから著作権が保護されているのだ。それが出来ない場合、それを必要とする障害者側が自らアクセス可能な著作物を作ろうとしているのに、どういう論理でそれを認めないのだろうか。そうした制作には多くの労力もコストもかかるが請求すらしていない。

多くの先進国の著作権法では、障害者のアクセスを保護するものとなっているのに。


ラビット 記