聴覚障害者のアクセスを保障しない改正著作権法

改正著作権法は、聴覚障害者の著作物アクセスについては、障害者権利条約の内容を踏まえてと言うが、極めて不十分なものというのが聴覚障害者関係団体の考えだ。

著作権法第37条2項で、聴覚により利用する著作物を聴覚著作物としている。
毎日テレビやラジオで放送されるキー局、ローカル局、ミニ放送局の番組、インターネットで流れるニュースサイトの動画。販売、レンタルされるDVD、CD。上演される演劇、舞台など枚挙に暇がない。

これらに字幕や手話通訳が付くことはまだ少ない。災害時の情報に字幕も手話も付かないのは台風18号、20号の例を見ても明らかだ。

これらを聴覚障害者がアクセスできるように著作権が制限されるのは二つの場合のみだ。

一つが自動公衆送信だ。
聴覚著作物の音声の文字化と「聴覚障害者等が利用するために必要な方式」による複製を自動公衆送信出来るとある(第37条2項1の方式)。

この「聴覚障害者等が利用するために必要な方式」というのが手話のことだと文化庁は説明する。手話の定義に困ったのかも知れない。
音声の字幕データ(文字による複製)と手話の映像データ(手話の複製)がインターネットで送信できるようになったという。

こうした放送番組に手話と字幕を付けてインターネットで配信しようとすると映像は送信できないと言う。
しかし、手話は元の映像なしにはあり得ないコミュニケーション方法だ。話者が自ら手話を使うか、音声で話す話者と手話通訳両方を同時に見るかのどちらかしかない。手話通訳は話者の表情から話し方、指示動作、服装までの情報を生かして、通訳するコミュニケーション支援技術だからだ。

聴覚障害者は手話通訳だけでは利用出来ず、「聴覚障害者等が利用するために必要な方式」とは、手話通訳と音声を含む映像との一体的複製しかあり得ない。
元の映像と一体でなければ、手話通訳の映像と同期させるための技術が必要となり、新たな障壁だ。

従って、第37条2項の1の自動公衆送信とは、手話を付加した映像の自動公衆送信が送信可能化権とともに認められているもとと理解すべきだ。

貸し出し用の聴覚著作物の複製は映像とその音声、手話通訳の一体的複製を認めているが、手話は映像と一体的に利用するものであることを著作権法自体が認めている。


ラビット 記