法事と難聴者

法事は難聴者には心乱れるものがある。亡くなった死者に別れを告げたり遺族に言葉をかけようとしてもその場の会話が聞こえないことには地団太踏みたい気持ちになる。
法事の前夜は亡くなられた故人の御霊が現世に残された人々と厚誼を結ぶ大切な時間だ。親族などみな夜集まって故人の生前の話や近況、今後の生活を語り合って一族の結束を固める。
法事は宗教行為というより、「地域生活」そのものだ。なのに要約筆記者の派遣を認めない自治体がある。

聞こえない人はその中に入りにくいので、どうしても孤立感が強くなる。特に逝去した日にあれこれどうしたのどうするのと聞きにくい。
長男なのに父が亡くなったその日に皆が話していることが分からず用があると出かけてしまい夜遅く帰宅した。いまでもどうしてその時残っておじや弟に父のことをあれこれ聞かなかったのか後悔している。
「別れ」の儀式が20年経っても完了していない。

ラビット 記