デジタル放送時代の字幕

061123_1844~002.jpg総務省の「デジタル放送時代の視聴覚障害者向け放送に関する研究会」は第二回が終わり、12月1に第三回がある。

これまでの研究会では、放送事業者や関連企業が字幕放送や解説放送に対する取り組みを報告し、これに対し全難聴、全日本ろうあ連盟、日本盲人会連合会の 委員が利用者の立場で意見を述べている。
しかし、放送事業者と関連企業の報告はこれまでの実績と技術的な取り組みについて終始し、障害者側の委員は、皆放送法に障害者のテレビ放送のアクセスす る権利とその保障となる目標値を持ったガイドラインの設定などを提案しているなど、まだ施策の方向を定める議論にまでいっていない。

総務省がなぜ今デジタル放送時代の視聴覚障害者向け放送の研究会を立ち上げたのか。それは直接的には、2007年に今の字幕放送普及の指針の目標年度に達し、その後の方向を打ち出さねばならないからだ。また、視覚障害者の解説放送やろう者の手話放送などは現行アナログのテレビ放送では普通放送に制約を加えなければできないという「技術的」制約があるので、デジタル化で打開するという理由もある。解説放送はステレオの片チャンネルを使い、手話放送もワイプなど画面の一部を占有するので、普通の視聴者を重んじる放送事業者側がよしとしないのだ。

2011年にテレビの地上波デジタル放送完全移行に合わせ、放送事業者もテレビメーカーもインターネットコンテンツ事業者などもそれに向かってなだれをうって血眼になっている。
しかし、研究会では肝心のデジタル化によって、障害者のアクセスがどうなるのかの問題については明確な報告がされていない。テレビ放送とデータ放送との リンク、ワンセグ放送、災害時の情報提供などに触れられただけだ。NHK放送技研や大学の手話に関する研究がアニメに集中してしまうのか。音声認識技術がニュースに採用されたが、作成された字幕の修正によるコストの面で衰退したように、手話アニメの技術的困難を理由に手話放送も後回しにされないか。手話放送は必要な時に別の画面に表示されるオンデマンド方式が可能な規格だろうか。周波数帯域は十分か。字幕の色やフォント、位置の選択、スクロール機能などはオプションにされてしまったが、今後標準機能になるのか。字幕にはタイムドテキストというあらゆるメディアの映像と字幕を同期させる規格がW3Cで開発されているが、今後の字幕放送に関係がないのか。
地上波デジタル放送の規格は日本のISDB、アメリカのATSC、EUのDVBとあるが互換性はないのだそうだ。アメリカは2009年2月にデジタル化になると言うが、規格の違いがテレビのコストや障害者のテレビへのアクセス技術に影響がないのだろうか。

この研究会ではいろいろ多角的に検討しなければならない課題が多く、放送バリアフリーに付いて放送事業者や関連企業、利用者が協議できる恒常的な機関が必要だ。この機関が、アクセスの状況をモニタリングをするような権限を持たせればどうか。

アナログ放送を2011年に打ち切り、デジタル放送に切り替えるにあたって、国策として莫大な予算を投入するが障害者へのアクセスを進めることが免罪符とされてはかなわない。

ラビット 記