JDFの障害者差別禁止法制定の要望書(1)

日本障害フォーラムが、昨年末に障害者施策推進本部長宛に出した「障害者差別禁止法(仮称)の制定について」を衆議院厚生労働委員と主要政党政調会長宛に要望書を出した。

JDFのwebにはまだ掲載されていないので、分割して紹介する。
http://www.normanet.ne.jp/~jdf/


ラビット 記

                                        • -

2008年1月14日

衆議院厚生労働委員 各位
日本障害フォーラム(JDF)
代表  小川 榮一 
(公印略)

障害者差別禁止法(仮称)の制定について

貴殿におかれましては、日頃より障害のある人の人権確立にご尽力されていることに心より敬意を表します。
さて、国連の障害者権利条約は、今年5月に発効しましたが、日本政府はまだ批准に至っていません。私たちはこれを批准するための条件として、国内関係法の整備と、障害者の権利を具体的に担保できる裁判規範性をもつ「障害者差別禁止法(仮称)」の制定が不可欠であると認識しています。
政府は現行の障害者基本法を改正することで充分であるという立場をとっているようですが、裁判規範性がなく、権利侵害等に対し具体的な救済策がありません。私たちは障害者の差別禁止・権利擁護を具体化するには、別立ての法制が絶対に必要であるという認識に立ちます。
 この法の制定に際して、必要最小限の基本的な視点を下記の事項に掲げましたが、これ以外にも、人権に関わる障害問題が多面的・複合的に存在していることは言うまでもなく、この法だけで、障害のある人の差別問題が全面解決されるわけではありません。
 しかしこれらの完全な解決を図っていくには、「障害者差別禁止法(仮称)」が一日も早く制定されることによって、その糸口が開かれていくものと確信します。


1.障害者差別禁止法(仮称)の制定を早急に行うこと
 以下にその法に盛り込まれるべき重要な視点、要素を述べます。

(1)裁判規範性
2004年、障害者基本法が改正され、第3条3項に「何人も、障害者に対して、障害を理由として、差別することその他の権利利益を侵害する行為をしてはならない」という条文などが加わりましたが、具体的な救済規定がありません。したがって、差別を受けた場合あるいは権利侵害を被った場合、被害者が訴訟を可能とさせる、あるいは訴訟にいかない前の段階で、具体的な救済を受けることを可能とさせる、法制度の整備が必要です。
 差別や人権侵害に多くの障害のある人が見舞われ、泣き寝入りをさせられているという現状認識から、裁判所による是正命令を認めるなど裁判規範性のある差別禁止規定が組み込まれた法の制定が重要です。
 尚、この法における救済は、司法によるものと、救済機関の設置による簡易なものと、2つの方法によるものとすることが重要です。
 
(2)救済機関の設置
 差別を被ったり、権利侵害を受けた人が、訴訟で争えるようにしていくのが、障害者差別禁止法(仮称)の重要な役割の一つですが、日本においては、訴訟に持ち込んだ場合、多くの手間と時間、そして経済力が必要とされます。現在、人権擁護委員会が法務省の管轄で設置されていますが、障害者差別禁止法(仮称)における救済を目的とする委員会を、政府から独立した機関として設置し、権利救済の機能と役割を高めていくことが重要です。

(3)差別の定義と障害に基づく差別の禁止
障害のある人の権利を保障するという視点に立つ法制度の確立をめざす上で、「差別とは何か」を定義していくことは、この立法の基本となすところです。一般的に流布されている差別の概念(「障害」を特定して権利を侵害する直接差別)のみならず、間接的差別(「障害」を名指ししていない中立的な規定等によって「形式的平等」を装いながらも、障害のある人が結果として不利益をこうむることも差別の定義に含まれなければなりません。その場合の規定の目的や正当性が証明できない場合、例えば、就労分野における職員等の募集要件において「自力通勤」を要件とする場合、「障害」を名指しはしていないが、介助等の必要な障害のある人は不利益をこうむることになります。この場合の「自力通勤」要件の正当性が証明されない場合に間接差別に該当する)をも、その定義の中に入れる必要があります。
 また、家族に障害のある人がいるからとの理由で不利益な取り扱いを受けることや、過去に障害を持っていたという理由で差別を受けた場合についても、この法の救済対象としていくことが求められます。

(4)障害の定義
 基本的には身体的(広義の)特徴や個性によって被っている社会的不利益という社会モデルとしての障害の定義が求められます。現在の法体系においては、障害と認められない狭間の障害と呼ばれる人が多数存在します。これらの障害をすべて包括しうることが障害者差別禁止法(仮称)には必要です。
 一方、裁判規範性のある法制度という観点からは、立証可能な定義でなくてはなりません。
 具体的には、以下の通り提案いたします。

1)この法律の適用上、障害とは、心身の状態が、疾病、変調、傷害その他の事情に伴い、その時々の社会的環境において求められる能力又は機能に達しないことにより、個人が日常生活又は社会生活において制限を受ける状態をいうものとする。
2)過去においてそのような状態にあったこと、及び障害があるとみなされることも含めるものとする。
 
(5)合理的配慮
 この障害者差別禁止法(仮称)の立法化にあたって重要な鍵となるのは、合理的配慮という概念の導入です。雇用や教育の場など、社会参加という場面で、政府や、自治体、事業体に求められるのは、障害のある人への合理的配慮です。他の市民との平等を保障するために、配慮(環境や体制の整備といったもの)していくことが、障害者権利条約において求められています。前述した通り、合理的配慮がなされないことも、障害者差別禁止法(仮称)において、差別と認定されなければなりません。
(続く)