障害者権利条約と要約筆記者の到達目標

先日、M市で「障害者権利条約について〜通訳としての要約筆記〜」と題して、要約筆記奉仕員研修会で講演した。

障害者権利条約の理念が実現した社会は要約筆記がいつでもどこでも利用できる社会ということは考えていたが、障害者権利条約のもとで求められる要約筆記者とはどういう要約筆記者かという視点はもっと掘り下げられるべきだろう。
その意味では、この講演のテーマに感謝したい。

障害は機能障害を持つ元と社会の態度と障壁との相互作用によって起こるという障害者権利条約における障害の定義はいわゆる社会モデルだが、6月29日に閣議決定された「障害者制度改革の基本的方向」の冒頭に「社会の在り方との関係でとらえる」と記述されている。

難聴者は社会の中でどのような状態に置かれているのか、そこをしっかりみないと(アセスメントしないと)より良い状態を目指すための課題と施策や計画が示せない。

要約筆記者は、手話通訳と同じように社会福祉法第2種事業として派遣される事業を担うことになっている。
しかし、社会福祉法第2種事業とは何か、この事業を担うとはどういうことか、権利擁護とは何かをきちんと理解しなければならない。

難聴者等は、日頃からコミュニケーションが阻害され、人や社会との関わりも薄くなったり断絶させられている。ICFのいうところの「参加」が出来ていない状態といえる。
難聴者は会議や地域の集まりで会話に加われず、電話して用件をすませることも会話も出来ないでいる(「活動」)。
多面的複合的に問題を抱えている存在だ。

単に聞こえないことを書いて通訳することがコミュニケーション支援ではなく、もっとその内容を豊かにとらえたい。
どうやって難聴者等を支援するか、要約筆記者自身は通訳すること、通訳利用の継続、派遣先の理解を深めるなどの働きかけを行うが直接的に難聴者等に関われない。

要約筆記者は要約筆記を利用する難聴者を観察し、どのような問題があるかを見る力が必要だ。
その上で、派遣元に問題点と課題を報告する。
派遣元は必要があれば行政や相談支援事業者、その他の支援機関等と連携して問題解決策を講じることになる。

権利擁護のために多面的に難聴者等に働きかけることを理解しているのが要約筆記者だ。
奉仕員より書けるのが要約筆記者ではない。
聞く権利だけを保障する権利擁護ではない。人権全体を擁護するのだ。


ラビット 記
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1 障害者権利条約に掲げられたこと
・すべての障害者が基本的人権を守られるべき(第1条、前文)
・障害の定義。発展途上の概念、社会モデルへの転換
・コミュニケーションの定義(第2条)

2 障害者制度改革推進会議と閣議決定
・各法律のロードマップ提示
・情報・コミュニケーションに関わる記載の問題点
・全難聴の要求

3 難聴者の基本的権利と要約筆記
・難聴者のコミュニケーションに対する要求
  音声社会に所属
社会福祉法第2種事業としての要約筆記者事業の意味
・五つの到達目標の意味。

4 地域生活と要約筆記者養成事業
・難聴者施策を充実させるためには、地域での難聴者が施策を使って 日常生活を送っていることを社会のなかに印象付けること。