すべての都道府県と市町村に要約筆記事業を(2)

要約筆記事業は、都道府県障害者社会参加総合推進事業、あるいは市町村障害者社会参加促進事業として実施され、厚生労働省の通知による事業だった。
いわゆるメニュー事業であり、都道府県、市町村とも実施する義務がない、任意の事業とされてきた。予算も国の補助金の予算を越えると都道府県、市町村の負担となる。
身体障害者福祉法でいう手話通訳等の「等」の中に要約筆記が含まれることが省令で明記されている。

2000年の社会福祉法改正で、手話通訳事業が社会福祉法の法定第二種事業になった際に、要約筆記も厚生労働省令で同様に社会福祉法人の法定事業とされた。しかし、事業は奉仕員事業のままであったことが事業のレベルも位置づけが法的位置づけと乖離していた。
障害者自立支援法の第77条に、市町村の地域生活支援事業について、市町村は「手話通訳等を行う者を派遣する事業を必ず行わなければならない」と書かれていることから、要約筆記者事業の実施についても法的に位置づけられたのである。

この意義はとても大きい。
第一に、要約筆記者が聴覚障害者の権利擁護の担い手として、事業の内容も事業の実施も法律で位置づけられたことである。
この場合の聴覚障害者とは、手話をコミュケーションの手段としない中途失聴・難聴者を指す。これまで手話を使わない聴覚障害者は、要約筆記奉仕員に「通訳」と支援を受けるしかなかった。
第二に、要約筆記者が専門性を持つ社会福祉サービスの一つとして認められたことである。手話通訳とともに、介護福祉士社会福祉士精神保健福祉士などと並んで、障害者等の社会資源の一員となるのだ。
第三に、要約筆記者の身分保障、待遇改善につながることだ。事業の名称から、奉仕員の役割が強調されて、要約筆記の役割が通訳と難聴者支援が混同、あるいは一体化していたために、待遇は報酬ではなく謝礼であり、低かった。
第四に、難聴者の支援が内容的にも、レベルも豊かになることである。要約筆記者は通訳の現場のコミュニケーション保障を担うだけではなく、中途失聴・難聴者の立場で利用者の抱える問題を把握して、派遣元に返していく。要約筆記者派遣事業体のコーディネーターは、地域の難聴者組織やボランティアグループ、社会資源とのネットワークを構築し、必要な支援を提案していくことで、必要な支援が提供できるようになる。

ラビット 記